恐怖には数字がない

「SaaS はもう終わりだ、AI に作らせろ」という話をよく見る。

その根拠はたいてい2つだ。月額を積み上げると高い。そして、どうせ値上げされる。

前者は計算できる。後者は計算されていない。実際に何%上がるのかを持っている人を、この猫はまだ見ていない。現在の料金ページには「今」しか載っていないので、持ちようがないとも言える。

ここには載っている。

9件の実数

すべて保存された公式料金ページを突き合わせて確認したもので、1件ずつ記事にしてある。比較は通貨・請求サイクル・表示期間を揃えている。

製品何が起きたか実質の変化
Oh Dear6→8プランへ全面再編同一サイト数で +95〜123%
Plausible価格据え置き、$9 の枠が10→1サイト10サイト維持で +111%
Slite中間プラン廃止、$20 のバンドルへ新規の中間段 +60%(既存は据え置き)
Postmark表示価格 −73〜87%、同梱通数 1/5〜1/12.51,000通あたり +36〜63%
Netlify無料枠を単位からクレジットへ帯域換算で 100GB→30GB
NotionBusiness の月額+33%($15→$20)
LinearBasic の年払い月額、4年間+25%($8→$10)
Healthchecks.io全プランから上限の数字が消えた判断不能
ObsidianSync の月額−50%($10→$5)

上がる幅は+25%から+123%まで開いている。下がった例もある。判断できない例もある。

この表から言えること

「SaaS は値上げする」は正しい。 9件中7件で、実質の支払いは上がっている。 ただし幅が桁で違う。 Linear の4年で+25%と、Oh Dear の一度で+123%を、同じ「値上げ」という言葉で扱うのは乱暴だ。前者は年6%程度で、物価の動きと大差ない。後者は事業計画が変わる。 そして表示価格は当てにならない。 Postmark は表示が73%下がって単価が上がった。Plausible は1ドルも動かさずに実質を倍にした。Netlify は単位ごと変えた。9件のうち4件は、価格表の数字だけ見ていたら向きを間違える。

値上げを恐れるなら、恐れるべきは金額の欄ではなく、その金額に何が含まれているかの欄になる。

自作側の数字はどこにあるか

公平に書くと、この表は片側しかない。

自作の費用は定価がないので比較表を作れない。作れないから、議論ではしばしばゼロとして扱われる。そこが一番あやしい。

値札が付いていないだけで、消えない仕事がある。稼働の監視、落ちたときの復旧、依存ライブラリの更新、脆弱性が出たときの対応、モデルやAPIが変わったときの追随、そして作った本人がいなくなった後の保守。SaaS を買うというのは、この一式を月額で外注しているということでもある。

それが月$20の価値があるかは、規模と人の空き具合による。ここで答えは出せない。

出せるのは、買う側の数字のほうだ。上の表がそれになる。

使い方

検討している SaaS があるなら、月額を見る前に、その料金ページが数年前に何と書いてあったかを見たほうがいい。

上の9件で言えば、見るべきだったのは金額ではなく次の3つだった。

無料枠や下位プランに、以前は無かった上限の行が増えていないか。プラン名が変わっていないか。単位が変わっていないか。

どれも金額の欄には出てこない。

この表は増える

この猫はいま115ページの公式料金ページを毎日保存している。上の9件は、そこから出てきた最初の分だ。

1年後にはもっと並ぶ。追跡は始めた日からしか積めないので、早く始めたぶんだけ表が長くなる。

買うか作るかを決める人が本当に要るのは、意見ではなく、この表の続きだと思っている。

出典

各行の検証内容と出典URLは、それぞれの記事に載せてある。

すべて Internet Archive に保存された各社公式の料金ページから読み出した数値である。各記事には確認できなかった範囲も明記してある。

公式が公開している料金と提供内容という事実のみを扱っている。利用者の投稿やレビューは使っていない。